タメ爆の誘惑。
待ちに待ったシェリーズのアルバム「夕暮れサイケビート」が遂にリリース、なんですけど、そもそもこのバンドをプログレで語るのはチとおかしいんじゃア、なんて感じる方がおられるのも尤も至極。
とはいえ、先行リリースされたミニアルバムである「浮く足」のジャケ帶には「轟音・サイケ・オルタナ・プログレ……樣々なキーワードを持つ、噂の天才女性3人組『シェリーズ』ついにリリース。」とあったりして、このバンドの音を表現するのにプログレという言葉が添えられている以上、このブログで取り上げてみるのも間違ってはいないじゃないかな、なんて思ったりするのですが如何でしょう。
實をいえば自分もこのジャケ帶にプログレの言葉が無ければ普通のガールズバンドだと思って素通りしていたのは確実乍ら、音の方はストレンジデイズ的に言えば當にタメ爆系のそれ。そこにはっとするようなフックを鏤め、動靜を極めた美しいメロディラインを乘せていくところなど、自分的にはストライクゾーンの音だった譯です。
先行ミニアルバムのタイトル曲ともなっていた「浮く足」はこのバンドの風格をもっとも端的に表している名曲で、冒頭の掻き鳴らしギターからすっと入ってくるボーカルの澄んだ声も完全に好みで、特にサビメロのギターの美しさは當に至高。
ただミニアルバムの音の方が自分としては好みですかねえ。本アルバムではギターの音が硬質で、ボーカルがより前面に出ているように感じられます。その一方で、ミニアルバムの方にあった何処か夢見がちなボーカルの魅力がやや減じられているようにも感じられます。それでもこの旋律の美しさと轟音ギターだけで個人的には大滿足の一曲ですよ。
續く「Bee」も冒頭の流れるようなギターの旋律が一轉して静的なボーカルに切り替わる展開は好みで、この曲ではボーカルをより際だたせたミックスが見事に決まっています。しかしこの優しさと拙さと芯の強さを包含したnakamuの声質は陳綺貞にも通じる素晴らしさで、時折ファルセットを効かせたところもこの曲の雰圍氣に合っています。
そしてこのバンドのタメ爆魂が炸裂するのが續く「monster」で、ギターのアルペジオからしずしずと始まり、それがオルタナらしい轟音ギターで爆發する展開のインスト曲。轟音とアルペジオの動靜の切り換えが巧みで、プログレ的な文脈から聽いても十二分に愉しめる曲でしょう。
「Drunk Mother」はベースが主導しながらハモンドがムード音楽っぽく盛りたてる曲で、何処かユーモラスなところも感じられる曲。「even」とか、このバンドはこういうお遊びっぽい展開も好きなようで、ここでもnakamuの声質がマッチして優しい雰圍氣を釀しています。
「忘却」も、颯爽と駆け拔けていくメロディラインと、緩急を心得た構成が心地よい一曲で、歌詞も含めていかにも元氣が出て來そうな明るいコード進行も愉しい。やや唐突に終わってしまうところがちょっとアレっというかんじなんですけど、續く「yumeradio」は前の「忘却」の溌剌とした明るさとは一轉して、闇の中からゆっくりとしたメロディが立ち上ってくる美しい曲。
タメ爆の爆發とまではいかないまでも、後半に進むにつれてゆったりと盛り上がってくる展開と、ムードいっぱいにギターがエコーを滿タンに響き渡るところなど、構成の妙というよりはタイトルから想起されるイメージにまかせて音空間の美しさに浸っていたい一曲でしょう。
「結んだ手」はnakamuの声の魅力が十二分に感じられる素晴らしい曲で、彼女の力強く伸び上がるような声によって歌われるサビがいい。要所要所に添えられるピアノも素敵な味を出しています。
「katagiri」はミニアルバムにも収録されていた佳曲で、このアルバムでは冒頭のコーラスの低音がより強調されれています。ボーカルをより際だたせているこちらの方と、ボーカルとギターの轟音を同質に扱いながら音空間の調和を目指したミニアルバムのミックスのどちらが良いかといわれれば、このあたりが好みが分かれるかもしれません。
「浮く足」に関してはミニアルバムの方が好みなんですけど、ガールズバンドらしいコーラスが愉しいこの曲に関しては、こっちの方がこの曲のいいところをうまく引き出しているように感じられます。
アルバムの最後を飾る「悠久」は何だかいきなり時代劇のテーマ曲みたいなギターで始まってアレっとなってしまうんですけど、ボーカルとコーラスが入るとこのバンドらしい展開に。音の奧で鳴っているギターのアルペジオが美しく、中盤、コーラスをフックに爆發するギターから動に轉じる構成も素晴らしい。
という譯で捨て曲なしの全九曲、まあ、普通はオルタナ系のバンド絡みでリコメンドするべきなんでしょうけど、ここでは敢えてMansunもMUSEもMewもプログレ的に聽けるという方にオススメしたいと思います。