ホモっ氣全開、梓趣味。
何か最近エロい作品ばかり取り上げているんですけど、今日はちょっと趣向を變えてアンソロジーを一册、……とはいいつつ、それでも普通のものではない、というのはこのブログでの御約束、という譯で、栗本薫を編者とし「危険な愛」をテーマに据えた作品を取り揃えた「いま、危険な愛に目覚めて」を取り上げてみたいと思います。
「危険な愛」といっても、そこは編者の趣味嗜好がビンビンに反映されている譯で、本作でいう「危険な愛」とは要するにホモ。収録作は、川端康成の「片腕」や乱歩の「一寸法師」などの殿堂入り作品をはじめとして、火傷まみれの怪物が栗本薫におぞましい倒錯奇譚を饒舌に語る「侏儒」。
そして歌舞伎の女形の失踪に寺の血天井の怪異を絡めた傑作、赤江瀑の「獣林寺妖変」、新入りの美少年を巡って新撰組の男衆がホモっぽい色恋沙汰に振り回される司馬遼太郎「前髮の惣三郎」、SMめいた壮絶愛が形而上學へと突き拔ける掌編、筒井康隆の「会いたい」、サイコ君を巡る精神分析にミステリ的な仕掛けを凝らした連城三紀彦「カイン」。
そして男根崇拝の變態紳士が聖者へと解脱する過程を描いた宇野鴻一郎の「公衆便所の聖者」、宇宙人とのコンタクトをテーマにここでもやっぱりホモ絡みのネタを交えた小松左京の「星殺し」、そして美少年とホモ小説家、さらには婚約者を交えた淫靡な三角關係を描いた森茉莉「日曜日には僕は行かない」の全十一編。
ヘンテコな作品という點ではまず編者である栗本女史の「侏儒」はひばりテイストというか、大乱歩と楳図センセへのリスペクトというか、とにかくあの時代らしい趣味が炸裂した一編です。
物語は作家栗本薫の元へ、全身火傷を覆ったという黒ずくめの不気味男が訪ねてくるところから始まるんですけど、この不気味君が何故こんなことになってしまったのかというお話が、この男を語りにしてネチネチと進みます。
蜘蛛みたいな變態紳士に幽閉されてしまった美少年、というところからして何ともなんですけど、美少年は徐々に母親から受け繼いだ嗜虐の血を顯わにしていき、マゾ男である變態紳士はこの少年にボコボコにされるのが何よりも快感、……というお話が延々と語られるところは正直ゲンナリ。
やがて外界からの来訪をきっかけに美少年はこの變態地獄から逃れようと画策をするのだが、……と例によって例のごときカタストロフを迎えてこの男の語りは終わるんですけど、正直オチなしともいえるやおい的幕引きゆえ、讀者としてはこのドツかれる變態紳士のアレっぷりをニタニタと嗤うか、美少年のサドっぷりに萌えるのが吉、でしょう。
筒井康隆の「会いたい」は恐らく未讀か、昔讀んだとしてもマッタク記憶に残っていなかった一篇で、語り手の男は好きな女に毒を飲ませてスッ裸に剥いたあと、漆の茂みの中に転がしてしまうというアンマリな放置プレイを敢行。
この後は男のキ印ぶりが語られていくのですけど、この狂氣が形而上的なレベルで話を予想もつかない方向へと突き進めていってしまうところが素晴らしい。それでいて最後の語りに何処か敍情的な余韻さえ感じられるところも素敵で、掌編ながら非常に印象に残る作品です。
司馬遼太郎の「前髮の惣三郎」は、新撰組のお話だから至極マトモかと思っていたら、予想どおりというかここでもホモネタがシッカリと添えられているところに編者の趣味嗜好が強く感じられます。
惣三郎とかいう男が新撰組に新しい仲間として加わったのですけど、組の連中は悉くこの美少年の魅力にメロメロとなってしまう。普通の美少年だった男が、ホモに目覚めたことによって魔性を會得していくというオチを添えて、ただのホモ話におちるところを巧みに避けているところが文豪らしいなア、と感じた次第です。
連城三紀彦の「カイン」はこれまた再讀乍ら、やはり會話の端々にまで感じられる人工性と構築美を堪能したい一篇です。精神病院から脱走した自分の患者を探す醫者を語り手に据えて、二重人格である患者の正体が次第に明かされていくという結構で、ここにミステリ的な趣向をブチ込んでいるところが素晴らしい。中盤から判明していく不可思議な三角關係を絡めて、最後のどんでん返しへと雪崩れ込む展開は當に連城ミステリの眞骨頂。
で、やはりキワモノマニアとしてイチオシしたいのは、宇野鴻一郎の「公衆便所の聖者」で、出版芸術社のふしぎ文学館シリーズの「べろべろの、母ちゃんは……」で宇野氏のキワモノ小説の洗礼を受けた自分としては當に傑作。
映畫館などの公衆便所の仕切り板に仕掛けを施して、男のナニを拜みたい、という男根崇拝の變態君の物語なのですけど、この話を聞いた語り手が伝説の人物を追いかけていきます。
ホモ少年の堕落ぶりや、この少年から聞いた話をもとに聖者の居所を突き止めようとする語り手の冷静な筆致が、物語に立ちこめた變態ぶりとの見事な對比を示していて、これが最後の虚無的な余韻をよりいっそう引き立てているところも素晴らしい。
異端ぶりという點では、本作収録中、最高に突き拔けた一作で、ふしぎ文学館に収録されていなかった作品とはいえ、あれと同樣の變態ぶりは自分と同じく未讀の方であれば當にマスト。しかし栗本氏も解説で述べている通り「現在「魔楽」「切腹願望」などの作品集が入手しづらいらしいことは、たいへんに殘念である」というのは同感で、やはりこういうキワモノ作品は、感動と泣ける小説に席捲された現在の出版界では流石に復刊も難しいのかなア、と溜息をついてしまいます。
當に編者の好みが爆發した一册ながら、ホモに眉根を顰めてしまう御仁でなければノープロブレム。異形と變態を愛するキワモノの同志であれば、素晴らしい毒書体驗が出來るかと。「公衆便所の聖者」が讀めるというだけでも本作は買いでしょう。