對極。
陳綺貞っぽい、なんて噂を聞いて手に入れてみた張懸のファーストアルバム、「My Life Will」ですけど、確かにフォーク調の彈き語りっぽい曲風は表向きこそ似ているものの、ギターの音から彼女の聲質も含めて全ては陳綺貞とは對極にあるように感じましたよ、というか全然違うでしょうこれは。
一曲目の「Scream」は何処か寂しげなアルペジオが始まる曲ながら、ギターが奏でる音は硬質で、中盤に入るバイオリンもトラッドというよりは何処かカントリーっぽい雰圍氣。この曲を聴いただけでもう、陳綺貞とはまったく音の目指す方向が異なる、獨特の風格を持ったアーティストであることは瞭然です。
「寶貝(in the night)」もアルペジオに重なる彼女の何処か素朴な歌唱が、一曲目の「Scream」と同じ風格を持たせている佳曲。ギターの音も陳綺貞に比較すると、何処か硬い音質を意図的に殘していて、それが彼女の歌聲とマッチしているところがいい。
「迷惑」のギターは一轉してカッティングだけで進むものの、マイナーで何処か暗いところを含んでいるところがどこか七十年代の英國テイスト。途中に入る、マイナー調で重なるギターもそれらしく、今風というよりは昔の風格を強く押し出している為か、自分より上の世代には妙に懷かしい音に聽こえる曲ですかねえ。
「So?!…」を聽くと、この可愛らしさというか、何処か舌足らずなところを殘した歌い方やギターの音といい、確かに陳綺貞のようなと形容される理由は分かるような氣がします。しかし途中で入るフルートっぽい音とか、「寶貝」などで如實に感じられたギターの音の硬派なところはやはり独自の風格を持っていて、陳綺貞の目指す方向とは異なるような氣がしますねえ。
「Ain’t My Man」は、クランベリーズを髣髴とさせる王道の路線のイントロから、何処かくぐもったエフェクトを施したボーカルで流れるような雰圍氣を際だたせた曲。爽やかでいて、何処か乾いた音のギターが心地よい。装飾を排した素のままのコーラスや、後半のギターなど、やはりここでも七十年代英國テイストは健在です。
「My Life Will」は土臭いハスキーな歌唱法と硬質なギターが絶妙な融合を魅せる曲で、ここでも自分はクランベリーズを思い出してしまいましたよ。
「Live 酒館300秒」は囁き語りにも似たぶっきらぼうな歌から、王道のファルセットを要所に効かせているところがいい。カッティングの合間に入るギターがやはりここでも英國の風格を出しているような氣がするのですけど如何でしょう。
「信任的樣子」では、カッティングのリズムから一転して、スローテンポでしっとりと歌い上げる彼女の歌声を聽くことができるのですが、やはり彼女の歌の基本はあくまで素のまま。妙に飾ったところのないこの聲はライブでこそ映えるような氣がしますねえ。
「無狀態」まで聽いてくると、これはチャイニーズポップスの文脈よりもネオアコや美メロの系譜を繼承する音として聽いた方が愉しめるのでは、という氣になってきます。といいうのも、この硬質ながら素朴なギターのカッティングを聽いていて自分の頭に浮かんだ音というのは、例えばstarsailorのファースト「love is here」だったり、coldplayのファースト「Parachutes」だったりとまあ、その系統のものだったりする譯ですよ。
「Malaimo」はお遊びのような小曲で、これを経たあとすぐに「寶貝(in a day)」で二曲目のテーマを繰り返してアルバムは終わります。
中華ポップスらしくないところから、自分のようなマニアの受け方はちょっと複雜、といったところなんですけど、陳綺貞みたいなんていう妙な戲れ言は捨て置いて、ここは上質のギターサウンドと彼女の純朴な歌声に身をまかせてしまった方が吉でしょう。自分は非常に氣に入りました。
その一方で、やはり陳綺貞の音というのはやはり孤高、というのを再確認出來たというか、そんなかんじですよ。あの系統のギターサウンドが好きな人には當に堪らないアルバムでしょう。陳綺貞ファンというよりは、寧ろ英國のギターサウンドが好きな人におすすめです。