昨日は皆川博子の「倒立する塔の殺人」を讀んだらその毒にアタってしまいまして。理論社のミステリーYA!シリーズだから、いくら何でもいつもの毒はそれほどでもないだろう、なんて甘い気持ちに挑んだのが大間違いで、いつもながらの甘美にして劇薬を交えた超弩級の風格には完全にノックアウト。皆川作品を讀み始めるにはまず心の準備が必要、というのはYA世代にも向けたこの作品も同様でありまして、「神様ゲーム」のように毒味が判然とした作品とは異なり、讀み進めるごとに脳へと浸透していくこの毒が果たしてYA世代の若者にはどのような効果をもたらすのか、――しかし若者向けであろうと容赦ナシ、という皆川センセの気合いの入れ方には吃驚、でありました。
という譯で、今日は病み上がりも兼ねて軽いネタで。ちょっと前に買っておいた「不思議ナックルズ」の十二号なんですけど、まあ、内容の方は「富士の樹海で「即身仏」になった男」と題して樹海の自殺ミイラを写真つきで紹介するというエグい企画や、「台湾恐怖伝説を追う!」として「今も実在する? 「首狩り族」を探せ!」と中國時報のアレな記事にツラれて台湾取材を敢行したりと、とにかくアレづくしなところがアレながら、個人的におっ、と思ったネタが一つだけありまして。
ワイド特集のひとつ、「恐怖の都市伝説」の中に収められた「バブル期に突如現れた怪人 「三本足のサリーちゃん」伝説」というのがそれで、
今から20年ほど前に地域限定で囁かれた一つの噂があった。「口裂け女」や「人面犬」のように、全国へ噂が拡散するような都市伝説ではなかったが、神奈川県北西部や東京・町田周辺に衝撃と恐怖を撒き散らしたのが、「3本足のサリーちゃん」と呼ばれた”怪人”であった。果たして、その正体とは、そして「3本足のサリーちゃん」は本当に実在したのか――?
で、その「3本足のサリーちゃん」なる「怪人」の風体について、ギンディ小林氏が「新耳袋殴り込み」のまえがきに書いているところが引用されているのですけど、
「中学3年生の頃、地元にセーラー服を着た片足の女が出没するという噂が広まった。その女性は全身がケロイドで、それを隠すためにかつらを被り、化粧をしたお面を被っているという。そのお面が『魔法使いサリー』に似ていることから、サリーちゃんと呼ばれるようになった」
で、このあと、いかにも不気味な怪人が登場するくだりをギンディ氏が描いているのですけども、この記事に曰く、この「3本足のサリーちゃん」なる怪人は中央林間駅や町田駅に出没していたとのこと。
で、ここからは完全に地元限定の話になってしまうのですけど、実は当時、自分もこの「怪人」を目撃しているんですよね。それも二度。何かずっと悪い夢だったと記憶の奥底にしまっていたものが、この記事を讀んで急に思い出したのですけど、この「怪人」が出没した「バブル全盛期の1987年に姿を現し、少なくとも半年近くの間」、自分はちょうど浪人生で、一番最初に目撃したのがたぶん田園都市線の中。日付は忘れてしまったのですけど、武蔵工業大学に模擬試験を受けに行った日、というのはハッキリと覚えています(爆)。
記事の中には電車の中で「席を譲ろうとしても絶対に応じない」とあるのですけど、自分が電車の中で見た時には、シッカリと七人掛けの座席に座っていました。風体はこの記事にある通り、「当時パーティーグッズで売っていたような半透明の仮面に化粧をし」ていて、おかっぱというか、ザンバラの鬘をかぶっておりまして、体型もこの記事にある通りにズングリとしたものだったと思います。
とにかくその衝撃たるや凄まじいものがあって、一瞥するや、思わず英単語帳を取り落としてしまいそうになったものの、「怪人」の隣にはまったく何事もないかのように人が座っているし、周囲の人もまったく平気なふうでありましたから、もしかしたらあれは幻だったんじゃないかなア、なんて考えていたところ、またまたしばらくして、今度はこの「怪人」を町田駅の周辺で目撃してしまった譯です。
記事によると、「怪人」は「小田急線とJR横浜駅の交差するロータリーから原町田駅に向かう途中に東急ハンズがあり、その脇の薄暗い道」に佇んでいた、とあるのですけど、自分が見たのもこのあたりで、少し前まで東急ハンズがあったビルから信号を渡ったところにある商店街を、この「怪人」が松葉杖をついてこっちに歩いてくるところを見てしまいました。
二度目ということもあって、そのときはいくらか冷静で、よくよく観察してみたのですけど、足はしっかり二本あったものの、白ソックスから剥き出しになっている片方の足だけが異様に太く、面からはたるんだ頬の肉がはみ出し、――と、とにかく異様な風体であったのは事実です。ただ、そのときには「このひと、男なんじゃないか」と訝しんだのも記憶にあって、記事の中に「あの正体はオッサンだったんだよ」という子供の証言が掲載されているのですけど、自分もそれが正解、のような気がします。
「3本足のサリーちゃん」で検索してもギンディ氏の逸話以外にはまったく引っかかりませんし、ローカルであることと、短期間の出没であったがゆえに案外、この「怪人」の存在は知られていないのだなあ、と思った次第です。
記事のむすびには「3本足のサリーちゃんは実在したが故に、「都市伝説」になり損ねてしまった」とあって、とりあえず自分があの時に見たのが幻ではなかったことが分かっただけでも、個人的には今回のナックルズは価値アリ、でありました。