何だか久々のミステリーランドの一冊で、『透明人間の部屋』では「かつて子どもだったあなたと少年少女のため」と書かれていたのが、本作のあとがきでは「みなさんも、おとなになるまで」云々……と書かれていて、ミステリ読みのオッサンは対象外だよンというカンジになってしまっていることにやや唖然。とはいえ、物語は大人の社会の苦さをミステリならではの仕掛けによって明かしてみせる構図の光る逸品で、堪能しました。
あらすじはというと、死んだ筈のパパが吸血鬼になって夜な夜な娘の元にやってくる、果たしてそのパパの正体はいかに、というのを家庭教師のトールボーイが探偵となって解き明かしてみせるというもので、この探偵役のボーイと娘っ子の視点が平行して語られていきます。
少女から見たパパは吸血鬼とはいえ、けっして恐ろしい存在ではなく、このシリーズらしいメルヘンの存在として描かれていくのですが、ここに重ねられた探偵の視点は、こうした少女の世界とその母親である大人の世界の双方を見渡すものとして語られている設定がまず秀逸。
大人がきっと何かを隠しているんだろう、というのは読者も当然勘ぐってみせるところながら、本作では隠蔽とはまた違った質感を持ったある事実があり、それが同時に吸血鬼の消失という怪異を明かすためのフックとなっている仕掛けも素晴らしい。
この真相自体は某作家の某作などいくつか先例があるものとはいえ、個人的には探偵が真相を明かしてみせる後半の大団円のシーンが、ある人物から見た幻想世界と探偵が明かしてみせた真実の世界との二重写しになっているところなど、楳図かずおの某長編を彷彿とさせます。
大人の事情によって真相を隠していたというありきたりの結末に陥ることなく、吸血鬼という怪異の謎を挿入してみせることで構図の錯綜を生みだし、さらにはそこへ少女と母親という二つの視点の重なりを見せることでミステリならではの人間ドラマを描き出した結構は、ミステリ好きの大人が読んでも十分に愉しめるのではないでしょうか。オススメ、でしょう。
前作『四月の橋』が、小島ワールドならではのやりすぎミステリを期待していた自分としては正直、微妙、……であったゆえ、今回は期待と不安が半々といったカンジだったのですが、初読時はちょっとアレだったものの、再読でやや評価をあらためた次第。結論からいうと、『武家屋敷』や『十三回忌』『扼殺ロンド』に比較すれば、謎の構築に関してはやや物足りないものの、横井氏の解説をもとに別の角度から読めばやはり力作、といった読後感です。