ジャケ帯に加門氏曰く「最恐」とあるのに、ジャケのイラストはパステル調というミスマッチ。実際はぞっとするほど恐いのもあるけども、そればかりではなくて、最近の「癒し」ブームも射程に入れた「泣ける」怪談も収録されていたりという、バラエティに富んだ一冊でした。
恐いのはジャケ帯の後ろにチラリと引用されている「長い髪」で、この話は「新耳袋」で讀んだ時もその気味悪さに印象に残っていたお話ゆえ、最後の最後に「新耳袋」との連關が明かされたところで納得至極。
もうひとつ恐いのはやはり「水色のトレーナー」で、何故にこいつが出現し取り憑くことになったのかその曰くが明かされることなく、旅行先までついてくるという執拗さがキモ。昨日取り上げた平山氏の「超怖」と違ってグズグスに腐った格好で幽霊がヌボーッと現れるようなビジュアル面でのツカミは希薄ながら、霊感体質の立原氏の実体験をいたずらに煽ることなく、とにかく淡々と語っていくという風格がいい。
本作の百物語の中では、たびたびアドバイザーとして登場する加門氏が非常にいい味を出しているのですけど、類は友を呼ぶの言葉通りに、職場から留学先の中国まで、とにかく霊感の強い人物が現れて、たびたびネタを提供してくれるのみならず、立原氏に取り憑いた悪霊もはらってくれるというお話が結構あって、その中でちょっと、というかかなり気になるのが、その取り憑いた霊を「捨ててくる」という方法。
手刀を切ったりして悪い霊を払っても、まだ消えない場合は、デパートなどの人込みに行ってソイツを捨ててくるとのことなんですけど、しかしじゃあ、そこに捨てられた霊はその後いったいどうなるのよ、と考えると、リアルにデパートに行くのが怖くなってしまいます(苦笑)。
そんなふうに色々とツッコミを入れながら讀むのがなかなかに愉しくて、例えば八十四話の「神と対話する医者」には、中国で漢方の研究をしたことがあり、閻魔大王に相談して患者の病状に合った薬を調合する医者、というのが登場するのですけども、何故に閻魔大王? とここは作者でなくともハテナとなってしまうところで、フツーだったら、そういう場合、保生大帝とか華陀に相談した方が話が早いんじゃないの、なんて個人的にはツッコミを入れたくなってしまいます。
上に書いた通りに、怖い話を淡々とした筆致で描き出した怪談というのが本作のウリながら、パステル調のジャケからも明らかな通り、貪欲に「癒し」を求めてやまないスイーツ女をも射程に入れた「泣ける」怪談もタップリと収録されてい、その中ではやはりこれまた「CREA」あたりで定期的に特集を組んでいる「わんこ」ネタがオススメ。
亡くなったペットのわんこがそばで守っていてくれる、という物語は、「ヒーリングスポット(笑)」で身も心もタップリ癒されたーいというスイーツ女もイチコロとなることは確実で、個人的には怪談ジャンキーよりも、オシャレなジャケに惹かれてフと本屋で本作を手に取ったスイーツ女がこれをきっかけに泣ける怪談へとハマってくれれば、最近の怪談ブームもますます盛り上がっていくのでは、――なんてことを考えてしまいます。
何しろ怖いだけが怪談ではないわけで、「超怖」のようにグズクズに腐った格好で目ン玉があった眼窩からはポロポロと蛆虫をこぼしているようなグロ幽霊も、「おくりびと」を観て感動に噎び泣くようなスイーツ女の魔法にかかればアラ不思議、死体からわき出す蛆も光り輝いて見えるというわけで、そうした「グロだけど癒される」という物語は、例えば最近の怪談物語では雀野女史の「黙契」という収穫もあるし、「怖さ」に「癒し」をプラスすれば、怪談もますます広く認知を得て大ブームとなっていくのでは、……と期待してしまうのでありました。
しかし最後の最後まで結局語られなかった生き霊ネタが気になって仕方がありません。いずれやこの物語の封印が解かれ、続編として刊行されるのを待ちたいと思います。