何だか鬱そうな俊一郎をあしらったジャケにいったいどうしたノ? と心配になるシリーズ第三弾。クラニーを彷彿とさせる言葉遊びの苦笑ネタを盛り込んだ前作「四隅の魔」に比較すると、今作は刑事の掛け合いや「僕」との軽妙なやりとりなどでユーモアを見せる風格にまとめあげる一方、霊感ボーイが対峙する猟奇殺人ネタに本格ミステリ的な仕掛けと謎解きを凝らした結構で見せてくれます。
物語は、若い女を狙う猟奇殺人にアンタの力を貸してもらいたい、と刑事に請われた霊感ボーイがかかわることに。果たして連続殺人の背後には、婆ちゃんも含めたボーイたちの宿敵の暗躍も感じられ、――という話。
若い娘の猟奇殺人といえばミッシング・リンクとストレートに考えてしまうわけですが、本作では「六蠱」なる実行犯がコロシの企図を明らかにしており、探偵ボーイの推理も死相からの見立てによってハウダニットを突き詰めていくというよりは、とある刑事の推理もまじえてフーダニットの趣向を際立たせたものとなっています。
犯人の姿が不明という謎に本格ミステリではお馴染みともいえる「見えない人」のネタを凝らしてあるものの、本作ではまずホラーという土台があるゆえ、姿が見えないのだって何かの魔術だろ、と油断していると、これがまた非常に現実的な解を用意してあるところもこのシリーズの見所でしょう。
死相という怪異をまず現実的な現象として受け入れ、ロジックを構築するための主要素として細やかな推理を構築していくという、このシリーズならではの魅力は本作にも充分に感じられ、もしかしたらよりリアリズムを意識した謎解きという点ではシリーズ中、ピカ一かもしれません。
また本作では、探偵ボーイと婆ちゃんの宿敵となるものを黒幕として、実行犯とその背後にいる人物というふうに犯人を二重化させた趣向がレッドヘリングとして見事な效果をあげていて、これが上に述べた「見えない人」の謎と連關することによって、フーダニットの誤導として機能しているところが秀逸です。
「若い女を狙う猟奇犯」というホラーとしては定番のネタを背景に、怪しげな女装男の存在を二重化させた犯人の様態に組み込んでいるところもこのミスリードを強調する仕掛けとなっているところなど、ストレートな猟奇殺人ものでサスペンスを基調とした展開ながら、読者を誤動させる仕掛けにおいては本格ミステリ的な、非常に細やかな技巧が凝らされているところが素晴らしい。
懐かしさの大団円で、じれったい消去法を見せるところに本格ミステリファンとしてはニヤニヤしてしまうのですけれど、ここで見せる消去法の見せ方も面白く、ホラー的な展開をベースとしながらも、騙しの技巧や謎解きの見せ方においてはより本格ミステリ色が濃厚に感じられる本作、こと謎解きに関しては刀城シリーズよりも明快な仕上がりを持たせているところからも、三津田ホラーから刀城シリーズへの橋渡しとしてもオススメできる逸品、といえるのではないでしょうか。しかし宿敵との対決に関しては最後の最後に婆さんが「こっちから向こうの土俵に入って、斃すしかないやろう」なんて気を吐いているし、次の展開に大注目なのでありました。