子供が讀んだらトラウマ必至。
よい子は絶對讀んじゃダメ。
麻耶雄嵩の新作は、ミステリーランドという器を最大限に「惡用した」怪作であります。
物語の語り手は小學校四年生の芳雄。彼が住んでいる町で猫を殺す陰慘な事件が発生するのですが、芳雄たちは探偵團を結成して、犯人搜しを始めます。そんなおり、芳雄は轉校生の鈴木と友達になるのですが、鈴木は自分のことを神樣だといい、猫殺しの犯人の名前も知っているという。
いっぽう探偵團は舊い屋敷をアジトとして使っているのですが、そのアジトで芳雄の親友が殺されてしまいます。犯人は神樣が教えてくれた猫殺しの犯人なのか、それとも、……芳雄は神樣である鈴木に親友を殺した犯人のことを教えてほしいと御願いするのだが……。
前回「くらのかみ」に取りかかった時は讀みかたを間違えてしまったのですが、今回は大丈夫です。神樣なんてものが登場しても、そういうものなんだと納得しながら讀み進めていったので、物語の終幕にはしっかり悶絶させていただきましたよ。うう、こりゃ凄い、凄すぎます。
とにかく細かいことひとつとっても、あらゆる内容がトラウマになるようなことばかりなんですよ。例えばもし神樣が自分の目の前に現れたとして、子供だったら聞きたいことっていうのはまず自分の将来のこととか、身近のことであれば、自分たちの先生のこととか、或いは自分がお氣に入りのテレビ番組のこととかじゃないですか。
で、芳雄も當然そういう子供としてはありきたりの質問を神樣に投げかける譯ですよ。しかしその神樣の答えっていうのが何とも。自分の将来はアレだし、学校の先生はアレしてるっていうし、番組のラストはアレがああしてあんなふうになってしまうというし、……更には質問に答えるだけじゃくて、聞きたくもないようなことまで教えてくれたりするところがもう、神樣というよりは完全に悪魔ですよ。
その神樣が教えてくれた餘計なことがずうっとトラウマになっていて、最後の最後まで芳雄はこのことを引きずってしまいます。
芳雄はアジトで殺された親友のことを神樣に尋ねて、その犯人に天誅をくわえてほしいと頼みます。神樣は何ら惡びれるようすもなく、いいよと答えてすぐさま犯人にその罰が下る譯ですが、これがまたまた芳雄のトラウマになってしまう。とにかくもう、畳みかけるように最後の最後までこれですよ。
神樣の言葉は絶對ですから、芳雄も神樣が教えてくれた犯人の名前について何ら疑うこともなく、もしその人物が犯人だったらどうやって犯行を爲し遂げたのだろう、と推理していきます。この推理の過程がまた物語の器に施した鬼畜ぶりとは相反して普通にミステリしています。
そうして芳雄はある結論に達したあと、さらに神樣へ最後の御願いをします。ついに終盤、あるシーンに至って、芳雄は自分の推理の最後の部分を讀者に明かし、神樣に御願いしたことが実行される瞬間を待つのですが、……このラスト。ええっ!という讀者を裏切りまくる鬼畜な終止符の打ち方は當に麻耶節の眞骨頂。
麻耶雄嵩が子供に贈る超絶の鬼畜トラウマミステリ。しかし何だかんだいって、麻耶ファンにこのラストはたまらないでしょうねえ。ええ、勿論自分も愉しめました。ただ繰り返しになりますけど、
よい子は絶對讀んじゃダメ。