ざれこさんの(非公認)読者大賞blogにおける企畫、「私の好きな探偵ベスト」。そろそろ締め切りも近づいてきたので、自分も參加してみようかなあと思います。
もうずっと前に、ここに挙げようとしていた探偵は決めていたんですけど、いかにもどマイナーなものばかりだし、どうせ皆有名どころを竝べてきて自分が挙げた探偵などは見向きもされないだろうから、……なんてウジウジ悩んでいたんですよ。でもtake_14さんの指摘にもある通り、皆さん結構趣味に走っているようなので、それならと自分も便乗させていただきます。
さて、自分が推薦したいのは、deltaseaさんの「探偵雑論」の分類においては「悩める名探偵」のカテゴリに入る人たちでして。
「惱める」というところよりさらに一歩進めて、ここでは「探偵」という宿業を背負った存在、といってみたい。つまり何かしらのトラウマから、探偵という宿命に囚われてしまった者という譯です。
そんな探偵という宿業に囚われた名探偵ということでまず一番に挙げたいのが、谺健二の初期三部作で活躍を見せた女名探偵、雪御所圭子です。
振り子占い師という變わった職業を持った彼女ですが、ワトソン役の有紀とともに鯉口刑事の協力も得て、不可解としかいえない難事件の謎解きに活躍します。
まずはデビュー作ともなった「未明の悪夢」。有紀とともに阪神大震災で被災した彼女はいかにも情緒不安定で、一風変わった雰囲気を漂わせていたのですけど、次の連作短篇となる「恋霊館事件」では、數々の難事件に驚くべき推理を披露してくれます。
そして彼女の哀しい過去が明かされ、何故に彼女がかくも探偵という宿業に囚われることになったのか、そのいきさつが語られる歴史的大傑作「赫い月照」。どマイナーだろうと何だろうと、やはり谺健二ファンの自分としては、まず第一に彼女をこのベストに推薦したい譯でありますよ。
さて、續く二人目は、これまた名探偵という宿業を背負った女探偵、瀬川みゆきです。
彼女が登場するのは城平京の長編「名探偵に薔薇を」の一作のみですが、現実の享樂に交わろうとしないところが禁欲的で、悲壯感さえ漂う雰囲気がいい。
彼女が活躍する「名探偵に薔薇を」はタイトルにもある通り、瀬川みゆきという名探偵の存在が、物語の事件に大きく關わっています。彼女がいなくてはこの物語はまったく成立しない、という點で、この作品、當に探偵小説中の探偵小説といえる傑作です。
全体は大きく二部に分かれているのですが、第一部「メルヘン小人地獄」では、はいかにも我々が想像する探偵小説の中の探偵らしい活躍を見せる彼女でありますが、探偵小説として彼女の存在感に壓倒されてしまうのは、第二部の「毒杯パズル」においてです。
ここで彼女は何故これほどの悲愴感をもって事件に挑まなければならないのか、名探偵瀬川の哀しい過去が明らかにされるのです。
彼女も當に雪御所圭子と同樣、探偵を續けることが宿命になっているという點で異色でしょう。
さて、推薦枠は三人なので、あともう一人ということになるのですが、ちょっと悩みましたよ。
谺健二の「殉霊」で探偵として活躍する緋色翔子が、雪御所圭子と同樣、宿業系の名探偵なのですが、ここはやはりフツーに有名な探偵を一人は挙げておかないといけませんよねえ。
という譯で、三人目は、芦辺拓氏の作品から森江春策を。弁護士、と職業はいかにも普通だし、その風體から語り口からすべてがフツーのいいひと、というかんじなのですが、逆にこの普通さがいい。自分は神奈川の人間なので、大阪弁が新鮮ということもありますかね。この普通さ故に、どんな雰囲気の作品にもオールマイティーに対應出來るというのが強みでしょうか。
自分は森江探偵が登場する作品をすべて讀んでいるという譯ではないんですけど、このブログでレビューしたもののなかでは、やはり「時の密室」と「時の誘拐」が際だっていい。いずれもミステリとしても素晴らしい傑作です。
大阪で法律事務所を營む、という設定がそのまま活きているのが上の二作なのですが、個人的に、森江探偵がいい味を出していると思うのは當に明智探偵さながらの大活躍が見られる「怪人対名探偵」と、狂人の學藝會(ちょっと言い過ぎか)に無理矢理出演させられつつ、大阪人としてのツッコミ精神も忘れない彼の活躍が何とも微笑ましい「グラン・ギニョール城」の二作ですね。
という譯で、以上三人を推薦したいと思いますので、ざれこさん、宜しく御願い致します。