ただ今讀み終えました。
まずこのジャケというか装丁が素晴らしいんですよ。手許にとっておきたい本、というか。透かしの入った表紙の裏写真、そしてタイポグラフィをふんだんに使ったデザインが美しいです。さらに贅澤なのが、見開きのあと小さなページが二頁あって、そこに「ユージニア、私のユージニア。」というこの物語のなかでは重要なメモ書きの詩とプロローグが載っています。そしてこの二頁には、大きくタイトルのEugeniaが本ページと重なるように青文字で印刷されているのです。もう、この素晴らしい装丁だけで買いですよ、個人的には。
物語の方は、あの夏の大量毒殺事件に關係した人間の証言を中心に進んでいくという、マルケスの「予告された殺人の記録」スタイルで、これはもう、完全に自分の好み。さらに聞きとりを行っていくにつれて、關係者たちにまつわる新しい謎と、事件の周囲で発生した不可解な出來事(例えば古本屋の話)が立ち現れてきて、ますます混迷を深めていきます。
この物語では、見開きの小さなページに書かれている「ユージニア、私のユージニア。」という詩も重要なのだけども、それとともに、ある女性が事件後に膨大な聞きとりと調査をもとにしたためた「忘れられた祝祭」という本が重要な鍵を握っています。讀後、この本も讀んでみたいな、と思ってしまいました。
ただこれはミステリというよりは幻想小説のようなかんじです。まあ、恩田陸の小説にジャンル分けが無意味なことは分かっているのですけどもね。ミステリ的な仕掛けが最後にあきらかになって、事件の背後にあった「眞相」が現れるのですけども、それでも風合いはあくまで幻想小説的なんです。
それに頭の悪い自分にはこの事件の眞相というものが正直よく分かっていません。というか謎だらけです。誰か明快な解説をつけて感想書いてくれませんかねえ。
それともうひとつ。このタイトルにもなっている「ユージニア」の意味が最後に明らかになるんですけど、恩田陸はこの語感をどこから拝借してきたのかということに關して。
前回「月の裏側」を取り上げたおりにも、彼女はピンク・フロイド好きなんじゃないかと邪推してみた譯なんですけど、もしそうだとしたらこのタイトル、「UMAGMA」に収録されている「Careful with that axe, Eugene」(ユージン,斧に気をつけろ)からとってきたんじゃないかな、と考えています。ただこの推理、作者がフロイドについて言及してある文獻を知らないので、あくまで勝手な邪推に過ぎないんですけどねえ。
作者の代表作ということにはならないだろうけども、個人的には當にツボでした。重層的な語りが事件の真相を明らかにしていく、みたいな物語が好きなひとにはたまらない一册でしょう。おすすめ。