「異能の作家・平山夢明はいかにしてできたのか!?」とジャケ帯にある通りに、基本は吉野氏を聞き手に平山氏が幼少期のエグい体験から映画からもろもろのことを熱く面白く語りまくるという構成ながら、「不思議ナックルズ」の「カルマの国のアリスたち」などを讀めば明らかに通り、稀代の聞き上手としても異能を発揮する平山氏のこと、吉野氏からも素敵な話をシッカリと引き出しての素晴らしい一冊に仕上がっています。
内容の方を目次から引用すると「最初の記憶、怖い記憶」「いい編集者、悪い編集者」、「大友克洋と漫画のチカラ」、「刺激ックスと知的好奇心」、「残酷な狂気のエッセンス」「無防備な日本とわたし」というフウに、「いい編集者、悪い編集者」などタイトルからおおよその内容を想起出来るものから、「刺激ックス」っていったい何? みたいなものまで非常にバラエティに富んでいるところも面白く、個人的には漫画を熱く語る「大友克洋……」と映画を語った「刺激ックス……」が最高に愉しめました。
漫画の中では、大御所手塚が原稿料を上げなくていいといっていたことや、天と対戦したときのアカギみたいな無理難題を編集者に突き付けたりといったエピソード、さらには大友克洋氏の異才天才ぶりを示す逸話など、こうした小ネタだけでも相当に愉しめるものの、やはり痛快なのは平山氏のツッコミで、例えば「三百八十円とか四百円とかで売っている」「コンビニ本」で「俺の本を原作にして描いてもらったことがある」という逸話を披露。そのなかには「えっ漫画家か? みたいな感じの人がたまにいる」といい、その漫画家のアレっぷりを晒したその内容が相当にアレ。
平山 というか、冒頭のコマで女が「やだ、この家なにかちょっと怖い気がする」って言うと「大丈夫だよ」って彼が言って、次のショットでは違う女が立ってたりするわけ、家のそばに(笑)。えっ、これ幽霊なのかと思うと明らかに彼が横にいる。で、吹き出しでは「私たちの新居なのよ、もうちょっと考えたら」とか言ってるから、冒頭の女なのかなあとは思うんだけど、もうこれが怖い。
ここに吉野氏が「そりゃあ一人で描いてない。ぜったいに五人で描いてる」みたいな漫画家ならではの視点からツッコミを入れてみせたりするのですけど、そうした吉野氏の合いの手がまた絶妙で、
平山 すごいんだよ。しかもね、若い夫婦が、ようやく苦労して手に入れたマイホームでね、中古だけどねって言ってるのに、すっごい洋館だったりするわけ。ないだろそんなのって。こんなでっけー家、ものすごい広いんだよ。なんでこんなにでかい家なんだろうって思うんだけど。
吉野 いや、それはその資料しかなかったんですよ。
平山 そうなの? だって階段なんてさ、ビビアン・リーが降りてきそうな階段なんだよ。君、それはちょっと違うよってさ。南部の豪農の家じゃないんだから。
吉野 たぶんのその家のちらしが入ってたんだと思う。それを使ったんだと思う。……
引用してたらキリがないのでこれくらいにして(爆)、そのほかの笑いどころでは、着ぐるみ談義でブースカに蹴りを入れていたエピソードとか、平山氏が語るグリム童話の「乞食の老婆」のあらすじと吉野氏が語る「かえるの王子様」、オードリーになりたい映画評論家やそのすぐあとに出てくる「宗教やってる先生」の話などがツボでした。
真面目なところでは、繰り返し語られる「キチガイ」と「変態」の違いや、「残酷な狂気のエッセンス」で出てくる怖さと笑いについてなど、ホラーや怪談を讀む上で色々と考えさせられる内容は後半にテンコモリ。それと平山氏が171pで語っていたYouTubeで見た心霊動画で怖かったやつって、これでしょうか?
狂気の裏に見える常識人平山氏の素顔とその「キチガイ」なるものへの真摯な探求心を堪能できる一冊で、稲川氏との対談本である「怖い話はなぜモテる」と同様、氏のファンであれば絶対に買いの一冊だと思います。