キモヲタから見た秘密の花園ワールド。
どうにも最近の小森氏の作品は初期のメタ節炸裂の作風とは異なり、正統本格ミステリとしてもちょっと弱いなあ、という印象があったんですけど、これはなかなか強烈。堪能しました。
寮にやってきた主人公であるフツーの女子高生の視點から語られる物語は、一昔二昔前の少女漫画もかくや、というノリで突き進みます。取り卷きを引き連れてヅカッぽい部長、四文字漢字で自己表現を試みる不思議ちゃん、更にはいじめられっ子の眼帶女(実際は包帯ですけど)、隱し事をしている同居人だのと濃厚なキャラたちで展開されるものの前半から中盤まではなかなか事件は起こらず、ちょっとダレ氣味。
怪しい夜の集会の描写がこれまた女子高生のオママゴトっぽくて相當にアレなんですけど、このあたりは苦笑しながら軽くスルーして讀み進めていきますと、主人公が怪しい男に襲われかかったり、その翌日にはホテルで女子高生が殺されたりと、殺人事件も発生して、うすら寒い少女漫画テイストからようやく本格ミステリらしい雰圍氣になってきます。
中盤を過ぎると怒濤の展開で、ホテルの殺人、さらにはジャケ帶にもあった「墜死体はなぜ折り重なっていたのか?」という殺人事件が登場、これは相當に強烈です。事件自體は死体が二つ重なっていたというだけなんですけど、謎解きの段階で解き明かされる眞相はかなりエグいです。
犯人の悪魔的な所行と思考が明かされるここは本作の見所のひとつで、シレッとした調子でこれだけのためにこんな殺人を犯してしまった犯人は當にキ印。さらに教師の一人が殺害され、これが密室状態だったということで、鍵の形状などに關してちょっとした知識が披露されるものの、このあたりがあっさり流されてしまうところはちょっと勿体ない、ですかねえ。
前半執拗に展開される暗号ネタも後半で再登場するのですが、これも本格アイテムのひとつに過ぎず、それらを作者は惜しみなく捨てていくところがある意味贅沢。恐らく作者の意図としては、事件の発生は中盤以降にずらして、前半の本格風味はこの暗号ネタで補って、という構成だったのだと思います。
暗号ネタにあまりノれない自分としてはそんな譯で、前半の展開はちょっとアレだったんですけど、本格マニアであれば前半の、この暗号解読も交えて、怪しいサークルの存在を突き止めていく展開もかなり愉しめるのではないでしょうかねえ。
また要所要所に作中作が挿入され、これがまた「ローウェル城」の作中作っぽいノリでかなりベタな物語にウンザリしてしまうんですけど、これはじっくり讀んでおいた方が吉。今回はこれが最後の謎解きでなかなか素敵な融合を見せてくれて大滿足ですよ。
片目に包帯巻いた不氣味ちゃんが、主人公に對して包帯を解いて傷口を見せる、というシーンに楳図センセの作品(「みにくい人」とか)を思い出してしまったのは自分だけでしょうか。何かこの作品、これだけじゃなくてかなりの漫画ネタが仕込まれているような氣がするんですけど、このあたりはマニアの方による解讀を期待したいところですよ。
しかし眞相に關しては、いかにも女子高生のノリらしいアレだったというところが何ともですよ。犯人の惡魔的な所行と、このオママゴトっぽい眞相のコントラストが奇妙な歪みを見せていて素晴らしい。易だの魔術だの、オカルトネタのゴッタ煮に作者の惡ノリが感じられてこのあたりもナイス。こういうのは大好きなので、作者の持ちネタのひとつであるインチキオカルトテイストが大好き、という人も大滿足出來るに違いありません。
また本格ミステリとしての謎解きが終わったあと、さらにその眞相の背後にオカルト的な歸結を見せるところも自分好みなんですけど、このあたりはオカルトをハッタリに惡用してしまう作者のこと、普通の作家がこれをやったら幻想ミステリ的な幕引きとなる筈が、作者の場合は妙にアッサリなところが物足りないといえば物足りないですかねえ。
ジャケ帶にある芦辺氏と二階堂氏の煽り文句はちょっと大袈裟じゃないかなあ、と思うものの、かなり讀ませる作品であることは確かで、一昔前の少女漫画テイストに背中がムズムズするのさえ我慢出來れば、濃厚なキャラとオカルトのハッタリが織りなす本格ミステリの眞相に驚愕出來ること受け合いです。