「世界のミステリの中における、台湾ミステリの未来」というテーマで、3月31日土曜日に台北の誠品書店信義店で開催された第六屆台灣推理倶樂部年會に参加したので、今回はその樣子をお傳えしたいと思います。
今年はテーマの中に、台湾ミステリの未来と世界規模での展開をテーマに織り込んでいるということもあって、來賓としてスイスから余心樂氏、そして日本からは権田氏を迎えての開催とあって、より國際色豊かな雰圍氣で進められたところが過去の周年會とは大きく異なるところ、というのが既晴氏の言。
余氏は、有栖川氏のアンソロジー「有栖川有栖の本格ミステリ・ライブラリー」に収録された「生死線上」でその名前を記憶されている方もいるかと思います。
勿論、この年會には島崎御大も参加されていて、「幻影城」の話題が出た時には、「幻影城の時代」を觀客席に掲げてシッカリとアピールされていたので、これで台湾のミステリファンにも「幻影城の時代」の存在が知られることになりましたよグフグフと、この同人誌を偏愛する一ファンとして、台湾の若いミステリファンに「幻影城」の偉大さを知らしめることが出來たのは素晴らしいと感じた次第です。
年會はまず召集人である既晴氏の挨拶から始まり、來賓の言葉へと續きます。「2006年、年度推理紀事」と題して昨年の台湾ミステリにおける出來事を纏めた發表から、「在世界推理中、台灣推理的未來(世界の中における、台湾ミステリの未来)」と題した座談會、そして最後に「第五屆人狼城推理文學獎頒獎典禮」として第五回となる人狼城推理文學獎の受賞式という盛り澤山の内容でありました。
事前に秘密ゲストとして予告されていた権田氏が、スライドも交えて既晴氏から紹介されたあと、「2006年度推理出版紀事」として、昨年出版された台湾ミステリの作品9作が紹介されました。因みにその作品のリストは以下の通り。全てこのブログで紹介濟のものなので、とりあえずリンクも張っておきます。
雨夜莊謀殺案 / 林斯諺
獻給愛情的犯罪 / 既晴
風吹來的屍體 / 冷言
霧影莊殺人事件 / 林斯諺
血紅色的情書 / 林哲儀
魅影殺機 / 秀霖.寵物先生.張博鈞
詛咒的哨所 / 林哲儀
布袋戲殺人事件 / 陳嘉振
修羅火 / 既晴
林斯諺氏の「雨夜莊謀殺案」と既晴氏の「修羅火」を除けばいずれも短篇集で、長編の創作を増やしていくことが今後の課題であるとの認識は自分も同様乍ら、やはり長編は勿論のこと、短編集も含めてそれらの作品をいかに出版へと繋げていくか、ということが一番の課題でありまして、このあたりは年會が終わったあとの食事會でも活發な議論が行われたのですけど、長くなりそうなので續くエントリで纏めてみたいと思います。
「2006年度推理活動紀事」に取り上げられたものの中で注目したいのは、やはり綾辻行人氏とジェフリー・ディーヴァーの訪台で、綾辻氏の訪台が9月30日、ディーヴァーの方が12月9日。因みに昨年の年度座談會の主題は「蛻變」で、第四屆人狼城推理小説獎で首獎を獲得したのは張博鈞氏の「火之闇之謎之闇之火」であったのは以前紹介した通りです。
2006年の活動報告が終わると、「在世界推理中,台灣推理的未來」をテーマに座談會が行われました。既晴氏、余心樂氏、そして日本からやってきたボンクラのプチブロガーの三人で、スイスと日本という海外から見た台湾ミステリの現状と可能性について意見を述べるという趣向でありまして、來賓がそれぞれの讀書の經歴を述べた後、余氏が「海外推理見聞」と題してスイスにおける「謀殺日書展」の紹介を行うと、續いて1980年代から現在に至るまでの台湾ミステリの歴史について既晴氏が説明を行いました。このスライドの内容については後日、ウィキの方に纏めておきたいと思います。
また台湾ミステリに影響を与えた歐米、日本の作家の紹介も行われ、コナン・ドイル、ヴァン・ダイン、クイーン、クリスティと竝んで日本からは横溝正史、松本清張、土屋隆夫、島田荘司、綾辻行人の五氏の名前が挙げられていました。このあたりからも、現在の台湾ミステリが決して新本格ミステリのみに偏ったものではないことが推察出來るかとは思うのですけど、……ってこの話をシツコク繰り返していてもキリがないので次にいきます(爆)。
影響を与えた歐米、日本の作家や作品の紹介に續いて、台湾ミステリの特徴が既晴氏から説明されたのですけど、この中でポイントとして挙げられたのは以下の四つの點であります。一つは現在に至るも短篇が主流で、この20年の間長編については20作にも到らず、その一方で短篇小説については既に400作もの執筆がなされているとのこと。つまり95%以上は短篇小説である、ということです。
もうひとつは「大多強調解謎、詭計、作品訴求單純直接」とある通りにトリックと謎解きに重點が置かれた作品が多いということで、やはり黄金期の作家や作品へのリスペクトを意識した風格が強い。
そして「資深作者長於社會性刻劃」とある通りにキャリアのある作家は社会派的な風格である一方、若い作家は「年輕作者受日本新本格浪潮較深」、即ち日本の新本格のような風格を受け容れて創作理論を重んじる傾向があるとのこと。
續く「站上國際舞台的台灣推理」というスライドでは、昨年リリースされた原書房の「本格ミステリ・ベスト10」で浦谷氏が書かれた「台湾とミステリ」というタイトルのコラムが取り上げられ、その後、海外で翻訳された台湾ミステリが紹介されました。
まず日本語に飜譯されたものとしては、余心樂氏の「生死線上」。またスイスでも氏の「命案的版本」が出版されています。中国では天地無限氏の「血讎的榮光」と、既晴氏の「網路凶鄰」。またこのスライドではリストに挙げられていなかったのですけど、「別進地下道」も中国版がリリースされています。そしてタイでも既晴氏の「網路凶鄰」が飜譯されているとのことでした。
以上、海外に飜譯された台湾ミステリの紹介を終えたのに續き、日本の現代ミステリと台湾ミステリの作品をそれぞれに取り上げて、その技巧と技法についての比較を行いつつ、台湾ミステリの風格を分析検証するということが日本からやってきたボンクラのプチブロガーによって行われたのですけど、これまた長くなりそうなので別エントリを設けてその内容の要約を後日、纏めてみたいと思います。
座談會の最後は「台湾推理的未來」ということで、台湾ミステリを發展させていく上での今後の課題などが既晴氏から語られたのですけど、やはりこの中では「増加國際交流」というところに注目、でしょうか。日台のミステリがもっと相互交流を深めていけば、必ずや素晴らしい成果が得られると思うのですが如何でしょう。今回、來賓として出席された余心樂氏の、スイスというヨーロッパから見た視點は非常にユニークで、このあたりについても續くエントリで詳しく述べてみたいと思います。
そして來賓の結語の後、「人狼城推理文學獎頒獎典禮」の發表となりました。入選作として事前に發表されていたのは、カナダ在住の文善氏の「瑪門」、そして秀霖氏の「第九種結局」、寵物先生の「犯罪紅線」で、今年の大賞を受賞したのは、寵物先生の「犯罪紅線」。これら三つの作品も近いうちにこのブログで取り上げますので乞う御期待、ということで、島崎御大からトロフィーの贈呈が行われて周年會は終了となりました。
年會が始まる前の昼食と晩餐に招待された際、余心樂氏、島崎御大とともに台湾ミステリの今後の展開などについて色々な話をしたので、次のエントリではそのあたりを纏めてみたいと思います。という譯で、以下次號。